使途不明金問題

亡くなった方の預貯金通帳から生前に多額の金銭が引き出されている、使い込まれているなどの使途不明金に関する問題について

弊所において、最近、遺産相続の法律相談において、多くなってきた相談が、亡くなった方の預貯金通帳から、生前に、多額の現金が引き出されており、その使途も不明であるが、どうしたらいいか?というものです。

亡くなる以前に引き出された金銭については、引き出した人がどのような主張をしているのかによって、法的な対応方法が変わってきます。

以下では、引き出した人がよく主張する

(1)亡くなられた方から、贈与されたものである!

(2)亡くなられた方のために使用した!

(3)引き出したのは自分ではない!

という主張に対する対応方法について説明致します。

 

(1) 亡くなられた方から贈与されたものである!という主張の場合

この場合は、遺産分割手続の中で、特別受益(民法903条)として主張していく法的な対応方法が考えられます。

ただ、贈与された金銭が、無条件に、特別受益に該当する訳ではありません。相続人に対して、「生計の資本として贈与」されたことなどの要件を満たす必要があります。

 

当事務所における解決事例

※弊所で担当した事案をプライバシーの関係から一部変更していることはご承知おき下さい。

依頼に至る経緯

妹が、亡くなった父親の遺産について、その内容を明らかにしてくれない。不審に思った依頼者様が、亡くなった父親の預貯金口座の取引履歴を入手したところ、亡くなる2~3年前に多額の金銭の引き出しがあった。この使途について、妹に質問したが、何も回答してくれないので、困った弊所に依頼をされました。なお、亡くなる2~3年前、父親は寝たきりの状態だったので、亡くなった父親が引き出したとは到底考えられないとのことでした。

 

対応方法

弊所においても、取引履歴の内容を精査させて頂いた上で、妹様に、亡くなる2~3年前に引き出し金銭の使途について質問する書面を発送しました。

しかし、残念ながら、妹様から回答を頂けなかったので、やむなく、その余の遺産があったことから遺産分割調停を提起させて頂き、その調停の中で、改めて、亡くなる2~3年前に引き出し金銭の使途について、妹様に質問をさせて頂きました。

その結果、妹様からの回答は、その金銭は、妹様の配偶者などに贈与されたものであり、遺産ではないという回答がなされました。

この点、昭和55年5月24日に福島家庭裁判所白河支部審判において、相続人の夫に対する贈与について特別受益と該当した判断がありましたので、この審判例などを元に、特別受益に該当する旨の主張を行った結果、生前に贈与された金銭の一部について、特別受益に該当するとの裁判所からの心証開示があり、その点を踏まえた内容の遺産分割協議を成立させることが出来ました。

 

弁護士の所感

当初、妹様からは何らの回答もして頂けなかったので、事件解決までに、長い時間がかかった事件でしたが、最終的に、生前に引き出された金銭の一部を特別受益に該当するとして遺産に含めた形での遺産分割協議が成立したことに、依頼者様からは納得した解決が出来たと言って頂けました。

 

 

(2) 亡くなられた方のために使用した!という主張の場合

 

この場合は、亡くなられた方のために使用した!という内容について、裏付け資料をつけて、納得の出来る説明をするように、金銭を引き出した人に求めて行くことになります。

その回答が不十分ないし納得の出来ないものである場合は、不当利得返還請求訴訟(民法703条等)を提起する必要があります。

なので、亡くなられた方のために使用した!という主張の場合は、遺産分割手続きだけでは、解決に導くことが出来ない場合があります。

なお、事案によっては、遺産分割手続きの中で一体解決が出来る場合もあります。

 

当事務所における解決事例

※弊所で担当した事案をプライバシーの関係から一部変更していることはご承知おき下さい。

 

依頼に至る経緯

父親が亡くなったので、長兄に、遺産の開示を求めたところ、預貯金がほとんど残っていなかった。不審に思った依頼者様は、父親の預貯金通帳を確認したところ、生前に多額の金銭が引き出されていることが判明した。そこで、その使途を、長兄に質問したところ、長兄は、父親のために使ったと答えるのみで、詳細な使途について明らかにしようとしなかった。困った相談者が弊所に依頼した。

 

対応方法

弊所において、引きされた預貯金の年月日及び金額を、エクセルファイルに入力し、一覧性のある表を作成した上で、同表に使途を記載する形での回答を長兄に求めました。

しかし、長兄からは回答がなかったので、やむなく、不当利得返還請求訴訟を提起させて頂きました。この訴訟においても、上記一覧表を訴状に添付するなどして、多額の金銭が短期間に引き出されていることを印象付けるようにしました。

訴訟になって、ようやく、長兄から使途説明がなされましたが、一覧性のある表を作成したおかげで、使途説明が重複していること、時期的にあり得ない使途説明なっていることなどが明らかになったため、裁判所から、使途不明金の一部について返還を命じる和解勧告があり、無事、金銭の返還を受けることが出来ました。

 

弁護士の所感

エクセルファイルで、一覧性のある表を作成したことが、不明朗な使途説明を明らかにすることに大きな効力を発揮した事案でした。

依頼者様にとっても、使途説明の合理性を判断するために、一覧性のある表は役に立ったようで、依頼者様から、判断材料が明確で分かりやすかったとの言葉を頂くことが出来ました。

 

 

(3)引き出したのは自分ではない!という主張の場合

 

この場合のように、金銭の引き出し自体を否定されると、引き出しをした人が誰であるのか?とういう点についての主張立証は非常に労力を必要とすることになります。

具体的には、金銭の引き出し方法に応じて、金融機関などに、資料の開示を、弁護士照会、文書送付嘱託などで求めていき、開示された資料について筆跡鑑定などを用いて引き出した人を特定していくことが必要になります。

そして、引き出した事実を立証できると判断して初めて、不当利得返還請求訴訟(民法703条等)などの法的な手段に移ることが出来ます。

なので、引き出したのは自分ではない!という主張の場合も、遺産分割手続きだけでは、解決に導くことが出来ない場合があります。

なお、事案によっては、遺産分割手続きの中で一体解決が出来る場合もあります。

 

当事務所における解決事例

※弊所で担当した事案をプライバシーの関係から一部変更していることはご承知おき下さい。

 

依頼に至る経緯

母親が亡くなったので、弟に、遺産の開示を求めたところ、遺産の開示がなされなかったので、困った相談者が弊所に依頼した。

 

対応方法

弊所において、弟様に対して、亡くなった母親の遺産の開示を求める書面を発送しました。

すると、弟様からは、亡くなったお母様の預貯金口座や不動産など遺産の開示がなされました。

しかし、預貯金口座の残金があまりにも少額であったことに不信感を覚えた依頼者様から、預貯金口座の取引履歴の取得を要望されました。

そこで、弊所において、取引履歴を取得したところ、亡くなる以前に、多額の金銭が一度に下ろされていることが判明しました。

そこで、弟様に対して、上記金銭の使途を質問する書面を発送したところ、自分は一切関与していないので、分からないという回答がなされました。

そのため、金融機関に、弁護士照会を行ったところ、預貯金の払戻伝票の写しを入手することが出来ました。そして、その筆跡は、相談者によると、弟様のものであるとのことでした。

この事実を、弟様に提示し、再度、使途説明を求める書面を発送すると、弟様からは、回答がなされなくなってしまいました。

使途不明金以外にも遺産があったので、遺産分割調停を提起し、その調停手続きの中で、弟様によって引き出された多額の預貯金が、現金として遺産の中に含まれるはずであると主張しました。

一度、否定をしている弟様の主張は、遺産分割調停では、裁判所に受け入れられるはずもなく、引き出された預貯金は、現金として弟様が保有していることを前提とした遺産分割協議が成立しました。

 

弁護士の所感

当初、依頼者様は、父親の預貯金が生前に引き出されているとまでは考えておらず、予想以上に、解決まで時間がかかった事件でした。

払戻伝票の入手などに困難を極めましたが、何とか弟様が多額の金銭を引き出した事実を立証出来、依頼者様からは、満足のいく結果になって良かったとのお言葉を頂くことが出来ました。

ただ、この事件で、改めて、生前に預貯金を引き出されている事件の解決には時間と労力がかかることを認識させられました。
相続問題の基礎知識について